「生着率95%」「トルコが世界の植毛の6割」——ネットに出回る植毛の数字を一次資料まで遡ると、その多くは原典にたどり着けません。この記事は、発行元・調査時期・n数・URLまで確認できた統計だけを載せます。そして、確認できなかった数字は「使わない」と表にして開示します。
- ネットに出回っている植毛の数字は、原典が存在しないものが多数あります。「FUEの生着率93.6%(11研究のメタアナリシス)」「トルコが世界の植毛の60〜70%を実施」——いずれも一次資料に到達できませんでした。当サイトはこれらを使いません
- 日本で唯一、公的な位置づけを持つ評価は日本皮膚科学会のガイドラインです。自毛植毛術は男性型脱毛症で推奨度B/女性型でC1、人工毛植毛術は男女ともD(行うべきではない)。「自毛植毛はC1」と書いている記事が多数ありますが、誤りです
- 世界の植毛の実像を示す唯一の定点調査がISHRS Practice Census。ただし回答率24〜26%の会員アンケートであり、悉皆調査ではありません。この限界も含めて読む必要があります
- 合併症は査読論文で数値化されています。患者2,353人中442人(約18.8%)が何らかの合併症を報告(45研究のメタアナリシス・2025年)。ただし重篤なものは稀で、最多は疼痛・不快感です
- 日本国内の年間植毛手術件数を示す公的統計・学会統計は、確認できませんでした。「国内◯万件」と書いている記事は、出典を示せていません
3つ選ぶだけで、主要7院の総額と月々の支払額が出ます
前提:植毛の数字の多くは、原典が存在しない
この記事は、自毛植毛にまつわる統計だけを集めたものです。 ただし、普通の「データまとめ記事」とはつくり方が違います。 数字を集めるより先に、数字を捨てる作業をしました。 きっかけは、検索上位の記事を数十本読んだときの違和感でした。 たとえばこういう数字が繰り返し出てきます。 「FUEの生着率93.6%、FUTの生着率94.1%(11研究のメタアナリシス)」 一見すると、きわめて具体的で信頼できそうに見えます。 小数点まである。研究数まで書いてある。 そこで、その11研究のメタアナリシスを探しました。 PubMedで検索し、系統的レビューを当たり、引用元をたどりました。 見つかりませんでした。 見つかったのは、同じ数字を書いている日本のクリニックのブログと、そこから転載したと思われるアフィリエイト記事だけです。 論文はどこにもない。 出典として論文名も、著者名も、掲載誌も、DOIも、どこにも書かれていない。 数字だけが、出典なしでコピーされ続けている。 これは「生着率93.6%」に限った話ではありません。 「トルコが世界の植毛の60〜70%を実施している」 「日本国内の年間植毛件数は◯万件」 「患者満足度99%」 どれも、一次資料にたどり着けません。 そこで、この記事の方針を決めました。 ① 発行元・調査時期・ 標本数(n数)・ 出典URLの4つが すべて確認できた統計だけを 載せる ② 確認できなかった数字は、 「なぜ使わないか」を 表にして開示する ②こそが、この記事の核心です。 載せた数字より、載せなかった数字のほうが、読者の役に立つ—— そう考えています。 出典が示せない数字は、その数字が正しいか間違っているか以前の問題です。 検証できないものは、根拠になりません。
1. 発行元(学会・公的機関・査読誌・調査機関のいずれか)
2. 調査時期(いつの時点のデータか)
3. 標本数(n数)(何人・何件を調べたか)
4. 出典URL(読者が自分で確認できること)
クリニックの自社サイト・自社ブログを唯一の出典とする数字は、すべて除外しています。理由は単純で、広告主が広告のために出した数字を、広告収入で運営されているサイトが検証なしに転載したら、それは統計ではなく宣伝文句だからです。
日本皮膚科学会ガイドライン:推奨度A〜Dの階層
日本で、薄毛治療の各手段に公的な性格を持つ評価を与えている文書はひとつだけです。 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」 日本皮膚科学会雑誌127巻13号 2763-2777頁(2017年)に掲載され、2026年7月時点でこれが最新版です。 各治療法にA〜Dの推奨度が付されています。 A:行うよう強く勧めるB:行うよう勧めるC1:行ってもよいC2:勧められないD:行うべきではない このうち、自毛植毛術は男性型脱毛症で「B」、女性型脱毛症で「C1」。 そして—— 人工毛植毛術は男女とも「D」。「行うべきではない」です。
- 発行元
- 日本皮膚科学会
- 資料名
- 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版
- 掲載
- 日本皮膚科学会雑誌 127(13):2763-2777, 2017
- 時点
- 2017年公表/2026年7月時点で最新版
- URL
- https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/AGA_GL2017.pdf
「自毛植毛=C1」という誤記が広まっている
検索してみると、「自毛植毛は日本皮膚科学会のガイドラインで推奨度C1」と書いている記事がいくつも出てきます。 これは誤りです。 正確には—— 男性型脱毛症に対する自毛植毛術:推奨度B女性型脱毛症に対する自毛植毛術:推奨度C1 C1は女性型に対する評価です。 男性型に対してはBが付いています。 なぜ間違うのか。 推測ですが、ガイドラインの表を斜めに読んで、C1の行だけを拾ったのだと思います。 小さなミスに見えますが、影響は小さくありません。 BとC1では、「行うよう勧める」と「行ってもよい」で、意味が違います。 読者が治療を選ぶときの判断材料が変わってしまう。 出典を実際に開いていれば、起きない誤りです。
自毛植毛と人工毛植毛は、名称が1文字違いですが、学会の評価は正反対です。この違いは人工毛植毛が推奨度Dである理由とリスクで詳しく解説しています。
ちなみに、フィナステリド内服・デュタステリド内服・ミノキシジル外用は推奨度Aです。自毛植毛(B)より上の評価が付いています。植毛と投薬は競合するものではなく、ガイドライン上は投薬のほうが強く推奨されているという事実は、正確に書いておくべきだと考えます。
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※自毛植毛は公的医療保険が適用されない自由診療です。費用・術式・リスク(ショックロス、腫れ・痛み、採取部の瘢痕、毛嚢炎、感覚鈍麻など)については、必ず医師から直接説明を受けてください。効果には個人差があります。料金は2026年7月時点の公式サイト掲載額です。契約はその場で決めず、見積書を持ち帰って比較することをおすすめします。
ISHRS Practice Census:世界の植毛はいま何株か
世界の植毛の実像を定点で追っている調査は、実質的にひとつしか見つかりませんでした。 ISHRS(International Society ofHair Restoration Surgery/国際毛髪外科学会)のPractice Censusです。 数年おきに医師会員へアンケートを行い、グラフト数・患者数・市場規模などを推計しています。 最新は2025年5月公表の「2025 Practice Census」(2024年の実績が対象)。 まず数字を並べます。
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| 項目 | 数値 | 対象年 |
|---|---|---|
| FUEの平均グラフト数 | 2,262株 | 2024年 |
| FUTの平均グラフト数 | 2,100株 | 2024年 |
| 初回手術の平均 | 2,347株 | 2024年 |
| 女性患者の比率 | 15.3% | 2024年 |
| 同・2021年時点 | 12.7% | 2021年 |
| 女性手術患者数の増減 | 2021年比 +16.5% | 2024年 |
| 会員1人あたり患者数 | 2021年比 +20% | 2024年 |
※ISHRS「2025 Practice Census」(2025年5月公表・2024年実績)。医師会員946名に配信し、247名が回答(回答率26%)。標本誤差±5.4%(信頼水準95%)。悉皆調査ではなく会員アンケートです。
- 発行元
- ISHRS(国際毛髪外科学会)
- 資料名
- 2025 ISHRS Practice Census(2024年実績)
- 時点
- 2025年5月公表
- n数
- 医師会員946名に配信/247名回答(回答率26%)/標本誤差±5.4%(信頼水準95%)
- URL
- https://ishrs.org/wp-content/uploads/2025/05/report-2025-ishrs-practice-census_05-12-25-final.pdf
世界の手術件数は70万件超(2021年推計)
ひとつ前の版、2022年公表のPractice Census(2021年実績)には、市場規模の推計が載っています。 世界の植毛手術件数:703,183件(2021年・推計)世界市場規模:45億ドル そしてもうひとつ、実務上きわめて重要な数字があります。 会員の68%が、「望む結果を得るのに必要な手術は平均1回」と回答。 2016年時点の推計では平均5回とされていました。 5回 → 1回。 技術とデザインの計画性が向上した結果と読むのが自然でしょう。 ただし、これも822名中197名回答(回答率24%/標本誤差±6.1%)のアンケートです。 「1回で終わる」と断定できる根拠ではありません。 回答した医師の68%がそう答えた——それ以上でも以下でもない。
- 発行元
- ISHRS(国際毛髪外科学会)
- 資料名
- 2022 ISHRS Practice Census(2021年実績)
- 時点
- 2022年4月公表
- n数
- 822名に配信/197名回答(回答率24%)/標本誤差±6.1%
- URL
- https://ishrs.org/wp-content/uploads/2022/04/Report-2022-ISHRS-Practice-Census_04-19-22-FINAL.pdf
世界平均が日本人の必要株数を意味するわけではありませんが、「2,000株超が世界の標準的な規模」という事実は、見積りを読むうえでの目安になります。株数別の総額は自毛植毛の費用相場と主要院の総額比較で計算しています。
なお、1人が生涯で採取できる株数には上限があります(FUTで5,000〜6,000株、FUEで2,000〜3,000株が目安)。この制約はドナー限界とは何かで解説しています。
合併症の統計:査読論文が示す発生率
自毛植毛のリスクについては、査読を経た論文が複数あります。 クリニックの「リスクはほとんどありません」という説明より、こちらを読むべきです。 まず、2025年に発表されたシステマティックレビュー&メタアナリシス。 45研究を解析し、観察研究に含まれる患者2,353人のうち442人(約18.8%)が何らかの合併症を報告しています。 約5人に1人。 決して「ほとんどない」数字ではありません。 ただし、内訳を見ると印象が変わります。 合併症のうち最多は疼痛・不快感で、合併症例の63.57%。 そして重篤な合併症は稀で、多くは一過性と論文は結論づけています。 「合併症は多いが、重いものは少ない」—— これが査読論文の示す像です。
- 資料名
- 植毛の合併症に関するシステマティックレビュー&メタアナリシス
- 掲載
- Aesthetic Plastic Surgery(2025年)
- n数
- 45研究/観察研究の患者2,353人中442人(約18.8%)が合併症を報告
- URL
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40913181/(PMID: 40913181)
FUT後の瘢痕・ケロイドは最大15.1%
2026年にFrontiers in Medicineに掲載されたFUE植毛の合併症レビューは、より細かい数字を出しています。 全体の合併症発生率:1.2〜4.7%術後毛嚢炎:12.11%感染:最大11% そして、最も重い数字がこれです。 FUT後の肥厚性瘢痕・ケロイド:最大15.1% ドナー部で最多の合併症とされています。 FUT(ストリップ法)は、後頭部の皮膚を帯状に切除して縫合します。 線状の傷が残る術式です。 その傷が肥厚性瘢痕やケロイドになる可能性が、最大で15.1%—— これは術式を選ぶときに知っておくべき数字です。 FUTの株単価はFUEより安い院が多く(紀尾井町クリニックでFUT 660円/FUE 990円)、費用面での魅力は確かにあります。 ただし、その差額と15.1%という数字を、同じ天秤に載せる必要があります。 また、ショックロスについても記載があります。 術後2〜6週に発現し、通常3〜6か月で回復。 一時的な現象であり、永久的な脱毛ではない——という点は論文でも一貫しています。
- 資料名
- FUE植毛の合併症に関するレビュー
- 掲載
- Frontiers in Medicine(2026年)
- 主な値
- 全体の合併症率1.2〜4.7%/術後毛嚢炎12.11%/感染 最大11%/FUT後の肥厚性瘢痕・ケロイド 最大15.1%
- URL
- https://www.frontiersin.org/journals/medicine/articles/10.3389/fmed.2026.1750989/full
これは重篤な合併症ではありません。しかし、統計上は最も高頻度であり、「痛みはほとんどありません」という説明とは整合しません。実際の痛みの経過は自毛植毛の痛みはいつまで続くのかで整理しています。
ショックロスの経過(術後2〜6週に発現、3〜6か月で回復)についても、査読論文の記載と国内の臨床経験はおおむね一致しています。
FUT vs FUE:生着率の比較には論文がある。ただしn=3
「FUTのほうが生着率が高い」「いや、FUEも変わらない」 ——この論争に対して、同一患者で左右を比較した論文が1本だけあります。 Josephitis & Shapiro (2018)Hair Transplant ForumInternational28(5):179-182 結果は—— 生着率の差は約1%毛髪本数の差は約6% つまり、臨床的に意味のある差はほとんどなかった。 ただし。 この研究の被験者は3名です。 n=3。 極小サンプルです。 この論文を根拠に「FUTとFUEの生着率は同じ」と断定することはできません。 「同一患者・左右比較という質の高いデザインで、3例において差はほぼなかった」 ——書けるのは、ここまでです。 この留保を書かずに数字だけ引用している記事が多いので、あえて強調します。 生着率そのものの考え方は自毛植毛の生着率は何%が現実的かで整理しています。
- 資料名
- Josephitis D, Shapiro R. FUE vs FUT の生着率比較
- 掲載
- Hair Transplant Forum International 28(5):179-182(2018年)
- n数
- 患者3名のみ(同一患者内での左右比較デザイン)
- 結果
- 生着率の差 約1%/毛髪本数の差 約6%
- URL
- https://www.ishrs-htforum.org/content/28/5/179
日本の薄毛統計:潜在層が顕在層を上回る
日本国内で、薄毛に関する大規模調査を継続的に行っているのは、リクルートのホットペッパービューティーアカデミーです。 2025年10月16日発表の「薄毛に関する意識調査2025」は、スクリーニング調査n=50,000。 かなりの規模です。 その結果で、最も示唆的だったのがこれです。 「薄毛である」16.2%「薄毛ではないが、 薄毛が不安」21.3% 不安を抱えている層のほうが、実際に薄毛である層より多い。 潜在層が顕在層を上回っている。 この構図が、薄毛ビジネスの市場構造をそのまま説明しています。
- 発行元
- リクルート ホットペッパービューティーアカデミー
- 資料名
- 薄毛に関する意識調査2025
- 時点
- 2025年10月16日発表
- n数
- スクリーニング調査 n=50,000
- URL
- https://hba.beauty.hotpepper.jp/search/trade/hair/usuge/70975/
薄毛が気になり出す平均年齢:男性38.6歳/女性42.1歳
同アカデミーの2024年版には、別の重要な数字があります。 薄毛が気になり出した平均年齢:男性38.6歳女性42.1歳 (スクリーニング n=50,000/本調査 n=2,065/2024年7月調査) そして—— 20代男性が薄毛対策にかけてもよいと考える金額は月7,475円で、全世代で最も高い。 若い層ほど、支払意思額が高い。 この2つの数字を並べると、薄毛市場の需要曲線が見えてきます。 気になり始めるのは30代後半。しかし最も金を出す意思があるのは20代。 つまり、「まだ薄くないが、将来が不安な20代」が、最も価格に対して寛容な層です。 広告がどこに向けて打たれているかを考えるうえで、知っておいて損はない数字だと思います。
- 発行元
- リクルート ホットペッパービューティーアカデミー
- 資料名
- 薄毛に関する意識調査(2024年版)
- 時点
- 2024年7月調査/2024年10月公表
- n数
- スクリーニング n=50,000/本調査 n=2,065
- URL
- https://hba.beauty.hotpepper.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/data_summary_usuge20241016.pdf
日本人男性のAGA有病率は約30%。ただし出典は2004年
「日本人男性のAGA有病率は約30%」 この数字は、ほぼすべてのAGA関連記事に登場します。 出典を辿ると、板見智「日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査」日本医事新報No.4209, pp.27-29に行き着きます。 2004年の調査です。 年代別の内訳はこうなっています。 20代:約10%30代:約20%40代:約30%50代以降:約40%全年齢平均:約30% この数字は日本皮膚科学会のガイドライン2017年版にも引用されており、その意味で一定の信頼性があります。 ただし—— 2004年の調査です。20年以上前です。 この20年で、食生活も、平均寿命も、AGA治療薬の普及状況も変わりました。 「約30%」を現在の日本人の有病率としてそのまま使うことには、留保が必要です。 にもかかわらず、2026年の記事が2004年の数字を現在形で書いている。 それが問題だとまでは言いません。他に大規模調査が存在しないからです。 言いたいのは、「2004年の調査である」と明記しないまま使うことのほうです。 明記すれば、読者は自分で割り引いて読めます。
- 発行元
- 板見智
- 資料名
- 日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査
- 掲載
- 日本医事新報 No.4209, pp.27-29
- 時点
- 2004年(2026年7月時点で22年前)
- 備考
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」に引用されている
トラブルの統計:国民生活センターと行政処分
効果の数字と同じくらい、トラブルの数字を見ておく必要があります。 こちらは公的機関の統計が存在します。 国民生活センター(PIO-NET/全国消費生活情報ネットワークシステム)の美容医療に関する相談件数です。 2018年度:1,980件 ↓2022年度:3,709件 5年で約1.9倍。 そして、より深刻なのが危害情報です。 2024年度、医療サービスに関する危害情報1,255件のうち、美容医療関連が877件(69.9%) 医療サービスの危害情報の約7割が美容医療。 自毛植毛はこの「美容医療」の一部です。
- 発行元
- 独立行政法人 国民生活センター(PIO-NET)
- 主な値
- 美容医療の相談件数 2018年度1,980件 → 2022年度3,709件(約1.9倍)/2024年度の危害情報:医療サービス1,255件のうち美容医療877件(69.9%)
- URL
- https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20230830_1.pdf
https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/biyo.html
2026年3月、東京都が育毛剤の通販事業者に措置命令
直近の行政処分の例です。 2026年3月23日、東京都が育毛剤の通販事業者に措置命令を出しました。 不当表示の内訳は—— 優良誤認:5件ステルスマーケティング告示違反:2件 計7件 具体的には、合理的な根拠のない発毛効果の表示、架空の使用前後比較画像などが挙げられています。 これは育毛剤の事案であり、自毛植毛ではありません。 ただし—— 「合理的根拠のない効果の表示」「架空の使用前後比較画像」 この2つは、薄毛領域の広告に共通して見られる違反パターンです。 当サイトが症例写真・ビフォーアフター写真を一切掲載しない理由も、まさにここにあります。 医療広告等ガイドラインは、術前術後の写真の掲載に厳格な条件を課しています。 そして患者の体験談・口コミの広告利用は禁止されています。 「植毛 口コミ」で検索すれば、体験談を並べた記事がいくらでも出てきます。 当サイトはそれをやりません。 代わりに、出典が確認できる統計だけを置きます。 この記事は、その方針の実演でもあります。
- 発行元
- 東京都
- 内容
- 育毛剤の通信販売事業者に対する景品表示法に基づく措置命令(優良誤認5件+ステルスマーケティング告示違反2件=計7件)
- 時点
- 2026年3月23日
- URL
- https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/03/2026032307
海外植毛の統計:査読論文と英国政府の渡航情報
海外植毛、とくにトルコの植毛については、ネット上に出所不明の数字が最も多く出回っている領域です。 だからこそ、出典が確認できるものだけを書きます。 まず、2025年にAesthetic Plastic Surgery誌に掲載された植毛ツーリズムの査読論文。 指摘されているのは以下の点です。 ・年間約10億米ドル規模の 市場である・無監督の技師による 施術が行われている・おとり商法 (安価な広告価格で誘引し、 現地で追加請求)・規制当局が報告する 高い合併症率 「無監督の技師」—— つまり、医師ではない人物が施術しているケースが論文で指摘されている。 これは体験談ではなく、査読を経た論文の記述です。
- 資料名
- 植毛ツーリズムに関する査読論文(トルコ)
- 掲載
- Aesthetic Plastic Surgery(2025年)
- 主な指摘
- 年間約10億米ドル規模/無監督の技師による施術/おとり商法/規制当局が報告する高い合併症率
- URL
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40660034/(PMID: 40660034)
英国政府:2025年にトルコで美容医療後に死亡した英国民は7名
英国政府(外務・英連邦・開発省/FCDO)は、トルコへの渡航情報のなかで医療処置に関する注意喚起を行っています。 2025年に、トルコで医療処置を受けた後に死亡した英国民は7名。 これは植毛に限った数字ではありません。 美容医療全般(美容外科・歯科なども含む)が対象です。 この留保を書かずに「トルコ植毛で7名死亡」と書くのは、明確な曲解です。 しかし、7名という数字が政府の渡航情報に記載されている事実は、重い。 英国はトルコへの医療ツーリズムが最も盛んな国のひとつです。 その国の政府が、渡航情報のページに死亡者数を書いている。 日本から見たトルコ植毛の判断材料としては、体験談100件よりこの1行のほうが情報量があります。 国内とトルコの比較は国内植毛とトルコ植毛を同じ条件で比べる、トルコ植毛の全体像はトルコ植毛の費用とリスクで扱っています。
- 発行元
- 英国政府(Foreign, Commonwealth & Development Office)
- 資料名
- Foreign travel advice: Turkey — Health
- 主な値
- 2025年にトルコで医療処置を受けた後に死亡した英国民は7名(植毛に限らず美容医療全般)
- URL
- https://www.gov.uk/foreign-travel-advice/turkey/health
ISHRSの「闇植毛」会員調査:グラフト数の水増しが報告されている
ISHRSは、無資格者による植毛(同学会は”illegal hair transplant”と表現しています)について、会員調査と警告を公表しています。 ・会員の63.27%が、 「他国での無資格者による植毛は 深刻な問題」と 10点満点で8以上と回答 ・77.5%の会員が、 年に6件以上の 失敗植毛の修正症例を 診ている ・報告された被害には、 グラフト数の水増しが 含まれる (4,000〜6,000株と 説明されて、 実際は半分程度) グラフト数の水増し。 これは費用の話に直結します。 株単価で契約したはずが、実際に植えられた株数が半分だったとしたら、実質的な単価は2倍です。 そして患者には、植えられた株数を検証する手段がほとんどありません。 なお—— この調査については、調査年とn数が公表されていません。 したがって当サイトは、「ISHRS会員調査によると」という留保つきでのみ引用します。 63.27%という小数点2桁の数字が出ているにもかかわらず、分母が分からない。 そういう数字です。 それでも載せるのは、発行元が国際学会であり、公表URLが存在するからです。 載せない理由がない代わりに、限界も書く。 それがこの記事のルールです。 失敗植毛の修正については自毛植毛の失敗パターンと修正手術で整理しています。
- 発行元
- ISHRS(国際毛髪外科学会)
- 内容
- 会員の63.27%が「無資格者による他国での植毛は深刻な問題」と10点満点で8以上と回答/77.5%の会員が年6件以上の失敗植毛の修正症例を診ている/グラフト数の水増し被害の報告
- 時点
- 調査年・n数は非公表(当サイトは「ISHRS会員調査によると」という留保つきで引用)
- URL
- https://ishrs.org/illegal-hair-transplant/
https://ishrs.org/buyer-beware-medical-tourism-for-hair-transplants-can-have-costly-consequences/
ここまで見てきた統計は、すべて「他人の平均値」です。
ISHRSの初回平均2,347株も、合併症18.8%も、あなた個人の数字ではありません。
判断に必要なのは、自分に何株必要で、総額いくらになるのかという1点です。定額制(植え放題)を採用している東京植毛クリニックでは、LINEで写真を送るだけで、必要株数の目安と概算見積りを無料で確認できます。いきなり来院や手術を予約する必要はありません。
※自毛植毛は公的医療保険が適用されない自由診療です。費用・術式・リスク(ショックロス、腫れ・痛み、採取部の瘢痕、毛嚢炎、感覚鈍麻など)については、必ず医師から直接説明を受けてください。効果には個人差があります。料金は2026年7月時点の公式サイト掲載額です。
使わなかった数字:なぜ載せないのかを開示する
ここからが、この記事の本題かもしれません。 調査の過程で見つけたが、一次資料に到達できなかったために採用しなかった数字を、すべて開示します。 普通、記事には「使った数字」しか書きません。 使わなかった数字を書く記事は、ほとんどありません。 しかし、薄毛・植毛の領域では、出回っている数字のかなりの部分が検証不能です。 だから、「この数字は根拠がない」と名指しで書くことに、実用的な価値があります。 以下の6つは、当サイトが意図的に使わなかった数字です。
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| 使わなかった数字 | なぜ使わないのか |
|---|---|
| FUEの生着率93.6%/ FUTの生着率94.1% (11研究のメタアナリシス) |
原典が特定できない。「11研究のメタアナリシス」という記述はあるが、論文名・著者・掲載誌・DOIのいずれも示されていない。PubMed等で検索しても該当論文に到達できず、この数字はクリニックのブログとその転載記事にしか存在しない。 |
| 生着率95%/ 生着率90〜95% |
クリニックの自社主張であり、第三者による統計が存在しない。生着の判定基準(いつ・どう数えるか)も各院で異なる。当サイトは一般的な目安として「80〜95%程度」と幅で記述し、特定の数値を効果として断定しない。 |
| トルコが世界の植毛の 60〜70%を実施 |
ISHRSの一次資料で確認できない。ISHRSのPractice Censusにこの内訳は掲載されていない。出所を明示した資料が見つからないため、採用しない。トルコの植毛市場規模については、査読論文の「年間約10億米ドル規模」のみを本文で使用した。 |
| BAAPS 2021年監査: トルコ帰りの修正手術が 44%増 |
BAAPS(英国美容形成外科医協会)の公式サイトで確認できない。引用元とされる監査資料に到達できず、数字の定義(分母・対象期間)も不明。採用しない。海外植毛のリスクは、査読論文と英国政府の渡航情報のみを根拠とした。 |
| 日本国内の 年間植毛手術件数 |
公的統計・学会統計ともに、存在を確認できなかった。厚生労働省の統計にも、日本皮膚科学会の公表資料にも、植毛手術の年間件数を示すデータは見当たらない。自由診療のため診療報酬データにも現れない。「国内◯万件」と書いている記事は、出典を示せていない。 |
| 患者満足度99% | クリニックの自社調査であり、調査方法・n数・回答率が不明。加えて、医療広告ガイドライン上、治療の結果そのものを広告に用いることはできない。仮に数字が正確でも、当サイトは掲載しない。 |
※上記はいずれも、2026年7月時点で筆者が一次資料の所在を確認しようとして到達できなかった数字です。「数字が間違っている」と主張するものではなく、「検証できないため根拠として使えない」という判断です。今後、一次資料が確認できた場合は本文に追記します。
「93.6%」のように小数点まで書かれていると、精密に見えます。「11研究のメタアナリシス」と書かれていると、学術的に見えます。その見た目こそが、数字が独り歩きする理由です。
当サイトの基準は単純です。読者が自分でクリックして確認できないなら、書かない。
そのため、この記事の統計にはすべて出典URLを付けました。ぜひ、疑ってください。リンクを開いて、当サイトの引用が正確かどうかを確かめてください。それができる形になっているかどうかが、情報の信頼性の分かれ目です。
統計の読み方:n数・回答率・標本誤差
最後に、この記事に載せた統計を正しく読むための注意点をまとめます。 数字は、それ自体では何も言いません。 どう集めたかで、意味が変わります。
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| 統計 | n数・回答率 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| ISHRS 2025 Census |
946名配信 247名回答 (26%) 誤差±5.4% |
会員アンケート。悉皆調査ではない。回答した医師に偏りがある可能性(熱心な医師ほど回答しやすい)。 |
| ISHRS 2022 Census |
822名配信 197名回答 (24%) 誤差±6.1% |
世界703,183件は推計値。実測ではない。「68%が平均1回」も回答者の主観。 |
| 合併症 メタアナリシス |
45研究 患者2,353人 |
元となる45研究の質・定義がばらつく。「合併症」の定義が研究ごとに異なる点に注意。 |
| FUT vs FUE 生着率比較 |
患者3名のみ | n=3。デザインは優れているが、一般化はできない。「差はなかった」と断定する根拠にはならない。 |
| 薄毛意識調査 2025 |
n=50,000 (SC調査) |
規模は十分。ただし自己申告であり、医師の診断ではない。「薄毛である」は主観。 |
| AGA有病率 約30% |
2004年調査 | 22年前のデータ。他に大規模調査がないため使われ続けている。現在値として断定しない。 |
| ISHRS 闇植毛調査 |
調査年・n数 非公表 |
分母が不明。「ISHRS会員調査によると」という留保つきでのみ引用可能。 |
※上記は、本記事で採用した統計それぞれの限界を、筆者が各出典の記載にもとづき整理したものです。統計を引用するときは、必ず出典の「調査方法」の項を確認してください。
「回答率26%」が意味すること
ISHRSのセンサスは、この分野で最も引用される統計です。 しかし、回答率は26%。 946名に送って、247名が答えた。 699名は答えていません。 答えなかった医師の診療実態が、答えた医師と同じである保証はありません。 これを「選択バイアス」と呼びます。 学会活動に熱心で、症例数が多く、最新術式を採用している医師ほど、アンケートに答えやすい—— そういう傾向があれば、平均グラフト数は実態より高く出る可能性があります。 だから「世界の平均は2,347株」を、「あなたに2,347株必要」と読んではいけません。 これはISHRS会員のうち、アンケートに答えた247名の診療における平均です。 それ以上のことは言えない。 統計を正確に読むというのは、そういう地味な作業です。 そして、その地味さを省略した瞬間に、数字は宣伝文句に変わります。
2. 合併症の数値(18.8%、疼痛63.57%、FUT瘢痕最大15.1%)は、医師への質問リストになります。「この数字について、先生の施設ではどうですか」と聞けます。
3. 平均グラフト数(初回2,347株)は、見積りの妥当性チェックに使えます。極端に少ない株数を提示されたら、根拠を確認してください。
4. そして最も重要なのは、統計はあなたの株数を教えてくれないという事実です。総額の計算は自毛植毛の費用相場と総額比較と植毛費用シミュレーターで行えます。
よくある質問
日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」(日本皮膚科学会雑誌 127(13):2763-2777, 2017/2026年7月時点で最新版)では、自毛植毛術は男性型でB、女性型でC1とされています。
「自毛植毛はC1」と書いている記事が複数ありますが、これは女性型の評価を男性型にも当てはめた誤記です。原典はこちらのPDFで誰でも確認できます。
なお人工毛植毛術は男女ともD(行うべきではない)です。
「FUEの生着率93.6%/FUTの生着率94.1%(11研究のメタアナリシス)」という数字も広く出回っていますが、その11研究のメタアナリシスという論文に到達できませんでした。論文名・著者・掲載誌・DOIのいずれも示されておらず、クリニックのブログとその転載記事にしか存在しません。
一般的な目安として「80〜95%程度」という幅で語られることは多いものの、生着の判定基準(いつ・どう数えるか)自体が各院で異なります。詳しくは自毛植毛の生着率は何%が現実的かで整理しています。
ただし内訳を見ると、最多は疼痛・不快感(合併症例の63.57%)で、重篤な合併症は稀、多くは一過性と結論づけられています。
別の論文(2026年 Frontiers in Medicine)では、全体の合併症発生率1.2〜4.7%、術後毛嚢炎12.11%、感染 最大11%、FUT後の肥厚性瘢痕・ケロイド 最大15.1%という数値が示されています。
論文ごとに「合併症」の定義と分母が異なるため、数字の単純比較はできません。
自毛植毛は自由診療のため診療報酬データに現れず、厚生労働省の統計にも、日本皮膚科学会の公表資料にも、年間手術件数を示すデータは見当たりませんでした。
「国内◯万件」と書いている記事がありますが、当サイトが調べた範囲では出典を示せているものはありません。したがって当サイトは、この数字を使いません。
なお世界全体については、ISHRS「2022 Practice Census」が703,183件(2021年・推計)という数字を出しています。ただしこれは回答率24%の会員アンケートにもとづく推計値です。
確認できたのは、2025年にAesthetic Plastic Surgeryに掲載された査読論文(PMID: 40660034)が、トルコの植毛ツーリズムを年間約10億米ドル規模とし、無監督の技師による施術、おとり商法、規制当局が報告する高い合併症率を指摘していることです。
また英国政府(FCDO)の渡航情報には、2025年にトルコで医療処置を受けた後に死亡した英国民が7名と記載があります。ただしこれは植毛に限らず美容医療全般の数字であり、「トルコ植毛で7名死亡」と読むのは曲解です。
詳しくはトルコ植毛の費用とリスクをご覧ください。
2026年3月23日には、東京都が育毛剤の通販事業者に対し、合理的根拠のない発毛効果の表示や架空の使用前後比較画像などを理由に、優良誤認5件+ステルスマーケティング告示違反2件、計7件の措置命令を出しています(東京都報道発表)。
当サイトは、口コミ・体験談・症例写真を一切掲載しません。代わりに、出典が確認できる統計だけを置きます。この記事は、その方針そのものです。
まとめ:出典のない数字は、数字ではない
この記事に載せた統計は、14件です。 すべてに発行元・調査時期・n数・出典URLを付けました。 そして、載せなかった数字を6件、理由つきで開示しました。 後者のほうが、書くのに時間がかかりました。 「この数字の原典はどこか」を探して、探して、見つからないことを確認する。 見つからなかったことを記事に書く。 地味な作業です。 しかし、薄毛・植毛の領域でいま最も不足しているのは、この作業だと考えています。 「生着率95%」「トルコが6割」「満足度99%」 もっともらしい数字が、出典なしでコピーされ続けている。 読者は、それを疑う手段を持たされていません。 だから、出典URLをすべて貼りました。 疑ってください。 リンクを開いて、当サイトの引用が正確かどうか、確かめてください。 それができる形になっているかどうかが、情報の信頼性の分かれ目です。 そして最後に、統計についてひとつだけ確かなことを書いておきます。 どんな統計も、あなたに何株必要かは教えてくれません。 平均は平均でしかない。 判断の出発点は、いつも「自分の数字」です。
主要参考:日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」(日本皮膚科学会雑誌 127(13):2763-2777, 2017)/ISHRS 2025・2022 Practice Census/国民生活センター(PIO-NET)/Aesthetic Plastic Surgery(PMID: 40913181, 40660034)/Frontiers in Medicine (2026)/リクルート ホットペッパービューティーアカデミー「薄毛に関する意識調査2025・2024」



